シンガポール政府とのMOU締結とモデル評価の協力計画

2026年10月14日、Anthropicはアジア太平洋地域で5カ所目となる拠点をシンガポールに開設し、同国のデジタル開発情報省と基本合意書(MOU)を締結したことを発表しました。同社の発表によると、今回の協力分野にはAIの安全性やセキュリティ、モデル評価のほか、AI導入とその影響に関する研究、官民における責任ある導入支援などが掲げられています。

この合意に基づき、AnthropicはシンガポールのAI安全性や保証に関わる機関と、モデル評価の手法、テスト基準、インシデント対応に関する技術交流を進める計画です。今回の発表は今後の技術交流の計画を提示したものであり、合意に基づく具体的な成果や基準の確定状況は発表資料からは確認できませんが、公的な枠組みの中で実用的な評価基準の検討が進められようとしています。発表の詳細はAnthropicのシンガポール拠点開設と政府MOUに関する発表資料で確認できます。

利用者の言語と文脈に合わせた評価の実践

多言語の利点と課題
引用元:Anthropic News

今回の協力計画の背景には、同社がシンガポールで重ねてきた過去の検証実践があります。Anthropicが2024年6月に公開したレッドチーミングの課題に関する解説記事では、当時の自社におけるレッドチーミングの大半が英語で行われ、米国在住者の視点に偏っていたことが課題として挙げられていました。

その偏りを解消する取り組みの一環として、同社はシンガポールの情報通信メディア開発庁(IMDA)およびAI Verify Foundationと協力し、英語、タミル語、中国語(北京語)、マレー語の4言語と、現地の利用者に固有の話題を対象にしたレッドチーミングを実施したと報告しています。この実践が示すのは、一般的な言語能力を測るだけでなく、特定の地域や利用者が実際に使う言葉や文化的な背景を検証に取り込む重要性です。

また同資料では、専門家が潜在的な脅威やリスクを整理して手作業で探索的にモデルを試す段階から、理解が深まるにつれて検証方法を標準化し、自動評価へと移行していく過程が解説されています。リスクの評価、それに応じた緩和策の実装、そして有効性の再確認を繰り返すループを作ることが望ましいと説明されています。

国内の問い合わせ対応へ応用する検証設計

言語や利用者の文脈に合わせた評価という考え方は、国内企業が問い合わせ対応へAIを導入する際にも応用できます。一般的な正答率を測定するだけでは、自社固有の言い回しや現場で迷いやすい問い合わせに対して適切に返答できるかを判断できないためです。

実在の事例ではない仮定の例として、日本語と英語で宿泊予約の問い合わせを受け付ける宿泊運営会社を考えてみます。この業務に返信案を作成するAIを組み込む場合、単に模範的な例文でテストするのではなく、施設独自の設備名や通称、曖昧な到着予定時間の指定、あるいはアレルギー対応のように追加で確認事項が必要な依頼など、現場担当者が解釈に迷いやすい問い合わせを模擬入力として用意します。

最初は担当者が実際の問い合わせ履歴を見ながら、AIが生成した返信案と現場が期待する対応内容を比較し、どのような表現で食い違いが生じるかを探索的に洗い出します。不適切な返答や確認漏れが発生した入力は破棄せず、期待される対応方針とセットで試験データとして蓄積します。これにより、プロンプトの修正やモデルの切り替えを行った後でも、過去に問題となった表現で再び同じ失敗が起きていないかを再現して確かめることができます。

既存システムとの連携と個別の検討範囲

問い合わせ対応を実務へ組み込むにあたっては、AI単体の応答性能だけでなく、既存の運用環境とどう接続するかの見極めが欠かせません。利用する製品の標準設定だけで完結できるのか、あるいは自社のシステムに合わせた個別の改修が必要になるのかを整理しておく必要があります。

先ほどの宿泊運営会社の例であれば、既存の問い合わせ管理画面からAPIを通じてAIへ文面を渡し、生成された返信案を画面上に下書きとして表示させる連携が考えられます。また、最新の空室状況や施設案内といった社内情報をどの仕組みでAIへ参照させるか、担当者が内容を確認して修正した上で送信する承認フローをどう組み込むかといった設計は、利用しているシステムやデータベースの仕様に応じて個別の検討が必要です。

業務整理と検証範囲のご相談

AIを問い合わせ対応などの業務に導入する際は、いきなりすべての工程を自動化しようとするのではなく、どの問い合わせを対象とし、現場の担当者がどの段階で確認を行うのかという業務範囲の切り分けが重要になります。デノフのサービス案内でもご紹介しているとおり、デノフでは業務の整理からAIを活用する業務の選定、現場に合わせた試行範囲の策定、既存のWebシステムや業務システムとの連携設計まで、状況に合わせた技術支援を行っています。

自社の問い合わせ対応でどのような試験パターンを用意すべきか整理したい場合や、既存システムとの接続方法について検討を進めたい場合は、デノフへの相談窓口よりお気軽にご相談ください。現場の運用手順と既存環境を踏まえた具体的な進め方を一緒に具体化していきます。