ハードウェアや外部インターフェースと連携する業務システムを運用していると、エラーログや例外が一切残らないにもかかわらず、一部の処理だけが応答しなくなる現象に直面することがあります。原因箇所の見当がつかないまま広大なコードベースを探し回るのは、保守担当者にとって大きな負担です。

2026年10月に公開されたGitHub Blogの取材記事では、Raspberry Pi向けのJavaライブラリ「Pi4J」の開発者であるFrank Delporte氏が、不可解な入力不具合の調査にGitHub Copilotのコーディングエージェントを活用した経緯を明かしています。

5つ目のボタンだけが反応しない不具合

Pi4Jプロジェクトでは、2026年2月にForeign Function & Memory(FFM)APIを用いた新プラグインを含むV4をリリースしました。入念な事前テストを経て公開されたものの、リリース直後に利用者から「入力ボタンを5個設定すると、最初の4個は正常に動くが、5個目だけが反応しない」という報告が寄せられました。

この不具合の厄介な点は、目に見えて何かが壊れているわけではなく、例外も発生せず、ログにも警告が残らないことでした。さらに、旧方式のgpiodプラグインを使った環境では、全く同一のハードウェアとアプリケーション構成で正常に動作していたといいます。

調査の起点を絞り、実行環境の制約を突き止める

4基のCPU環境下で4つのキャリア枠がpoll()待機状態となり、独立した5番目の処理が未実行であることを示した概念図

Delporte氏は、不具合の調査にあたってCopilot coding agentにIssueを割り当てました。その際、漠然とコード全体を探させるのではなく、調査の起点としてprovider classとFFMDigitalInputという2つのファイルパスを直接指定しています。関係しそうな領域へあらかじめ絞り込んで渡すことで、探索の無駄を省く狙いがありました。

約30分後に提示されたプルリクエストと説明は、予想外の根本原因を指摘していました。新しい実装では、各入力の監視処理が仮想スレッド(Virtual Thread)上で動作し、Linuxカーネルからの状態変化通知を待つためにネイティブのpoll()関数を呼び出して待機していました。しかし、ネイティブ呼び出しの内部でブロックした仮想スレッドは、基盤となるキャリアスレッド(Carrier Thread)から切り離すことができず、呼び出し中ずっとスレッドを占有(ピン留め)してしまいます。

検証対象のRaspberry Pi 4は4基のCPUコアを備えており、仮想スレッドのスケジューラには4つのキャリアスレッドが割り当てられていました。そのため、4つの入力を登録した時点で4つのキャリアスレッドがすべてpoll()の待機状態で埋まってしまい、5つ目の監視処理は生成されたものの、一度も実行スケジュールが回ってこない状態に陥っていたのです。

AIの説明を鵜呑みにせず、レビューで問い直す

Delporte氏はこの説明に対し、コード差分を受け入れるだけでなく、レビューコメントを通じてAIへ疑問を投げかけました。「仮想スレッドはプラットフォームスレッドの制限を超えるための仕組みではなかったか」「なぜ4コアのプロセッサでキャリアスレッドがブロックされることが問題になるのか」といった点を質問し、さらに詳しい説明を求めたといいます。Pi4Jに取り込まれたこれらのプルリクエストは、取り込み前にメンテナーがレビューし、承認する手順が取られていました。

このように、コードの表面的な構文だけでなく、実行基盤のリソースやランタイムの挙動を結び付けて考える姿勢は、他の領域でも共通します。例えば、同じくGitHub Blogに掲載されたセキュリティ研究者@r31n氏の取材記事でも、AIは未知のコードの把握や呼び出し箇所の探索、データ経路の追跡を加速させる手段として活用されていました。同氏は、AIの出力には誤った前提やもっともらしい誤答が含まれる可能性があるため、結論をそのまま事実として扱わず、人間による手動検証と再現確認が不可欠であると強調しています。

国内の社内システム保守に応用するなら

このアプローチは、国内企業で運用されている社内設備管理システムや、外部機器と連携する業務システムの改修にも応用できます。

例えば、現場で計測機器を追加接続した際に「一部の端末データだけがデータベースへ反映されない」という問題が起きた場面を想定してみます。このとき、単に「データが届かない」とAIに尋ねるのではなく、まずは正常に動いていた構成と異常が出た構成の違いを記録した上で、接続機器の台数、通信ライブラリのバージョン、稼働しているサーバのCPU数やスレッドプールの設定といった実行環境の条件を対比させます。

次に、通信待ち受けやデータ受信を担う関連処理のファイルを特定し、観測された現象とセットでAIに調査を依頼します。AIから「特定のリソースがブロックされている」といった推論や修正コードが返ってきた場合は、その原因説明が現場のログやリソース使用状況と矛盾していないかの照合が欠かせません。そして、テスト環境で不具合を再現できる操作手順を用意し、修正を適用した後にすべての入力が期待通りに処理されるかを担当者の手で確かめる手順を踏みます。

調査の前提整理からご相談いただけます

既存システムの原因特定が難しい不具合にAIを活用する場合、重要なのはAI任せにすることではなく、調査に渡す前提条件を整え、返ってきた推論を実行環境に照らして正しく検証することです。

株式会社デノフでは、Webサイト・業務システムの設計・開発・運用保守を一貫して手がけており、業務の整理からAIを活用する業務やツールの選定、導入後の定着までを支援しています。社内の既存システムで連携の不具合やパフォーマンス低下が起きているものの、原因箇所の絞り込みや調査方針の策定に課題を感じている場合は、現状の構成整理や検証体制の設計を含めてデノフへの相談窓口よりお気軽にお問い合わせください。