画面の表示改善と、初回展開で判明した「先読み2.9倍」
Webアプリケーションの操作感を高める手法として、利用者がリンクをクリックする前に次の画面のデータを取得しておく「先読み(prefetch)」が広く使われています。しかし、画面遷移を即座に完了させようとするあまり、利用者が開かない画面まで過剰に読み込んでしまうと、サーバー負荷や通信費用が増加してしまう可能性があります。
Next.js公式ブログが2026年10月16日に公開したNext.js 16.4によるv0のナビゲーション改善報告では、AIアプリ生成ツール「v0」のTemplates画面などを対象とした具体的な改修の過程が紹介されています。改修前のTemplatesでは、一覧から詳細を開く際にスケルトンなどの読み込み表示が現れるだけでなく、同じテンプレートに戻る際にも詳細データを再取得して再び読み込み表示に戻るという課題を抱えていました。
開発チームは、AIエージェントに表示の到達目標を伝え、テストツールを活用して改修を進めました。ここで用いられたのが、Playwright向けのテストヘルパーであるinstant()です。これは画面遷移中に届くコンテンツを意図的に保留し、クリック前にどのUIが手元に揃っているかを検証する仕組みです。2026年8月に公開されたv0におけるinstant()検証の先行実践でも報告されていたように、開発側は「高速な遷移」という曖昧な要件を失敗するテストとして定義し、AIが修正と再テストを繰り返して合格させるループを取り入れました。クリックして遷移した際に、事前に手元に揃っていたデータによってヘッダーやタイトル、プレビューが表示され、広範囲の読み込み表示が出ないことをテストで検証したのです。
ところが、この改修を本番環境へ初回展開した際、新たな課題が浮き彫りになりました。選択したテンプレートの表示自体はクリック直後に利用可能となったものの、一覧に表示されている各カードが表示領域に入るたびに詳細な先読みが実行される設定になっていたためです。開発側の本番計測によると、詳細画面(/templates/[id])への先読みリクエストは改修前の2.9倍に跳ね上がっていました。画面上の表示テストに合格したコードであっても、利用者の実際の閲覧行動と合わさることで、想定外のトラフィックを生み出してしまう現実が示された場面です。
操作の意図を待つ、hoverやtouchを起点にした再調整
リクエスト急増の報告を受けた開発チームは、AIエージェントに対して先読みを開始するタイミングの再調整を指示しました。一覧に見えているカードすべてを無差別に取得するのではなく、利用者がその項目に関心を示したタイミングを捉えるアプローチへの転換です。
具体的には、詳細な先読みを開始する条件を、カードが表示領域に入った時点から、カーソルを重ねるhover、フォーカスを当てるfocus、または画面に触れるtouchといった操作を検知した時点へと変更しました。これにより、利用者が実際にクリックする直前に必要なデータを揃える即時性を維持しながら、一覧をスクロールして通り過ぎるだけのカードに対する過剰な通信を抑え込む設計へと修正されました。
一連の改修では、AIによる変更を一度にすべて適用せず、機能別のプルリクエスト(PR)に細かく分割して進めていました。開発側はPRごとにプレビュー環境で実際の操作感を確かめた上でマージを行い、公開後には次の4つの指標を継続して観測しました。
- キャッシュの読み書きに伴う費用
- 対象ルートへのリクエスト量(先読みリクエストと関数実行を含む)
- 対象ルートの処理に使用されたActive CPU
- 先読みリクエストによって発生したデータ転送量
画面上の表示確認だけで完了とせず、公開後のシステム負荷や通信量を指標として追跡していたからこそ、2.9倍のリクエスト増加を検知し、操作の意図を待つという追加の条件指定へとつなげることができました。
国内の既存業務システムに応用する視点

このv0の事例は、Next.jsのCache ComponentsやPartial Prefetchingを前提とした高度な実装ですが、そこで取られた「要件のテスト化」「段階的な確認」「公開後の観測」というサイクルは、国内企業の既存Webシステム改善にも応用できる示唆を含んでいます。
例えば、国内の卸売会社が利用する既存の受注管理Webアプリを想定した場合です。日々の出荷業務において、担当者が受注一覧から詳細画面を開く際、毎回数秒の読み込み待ちが発生していると業務の滞りにつながります。そこで表示改善を検討する場合、まず詳細画面に含まれる情報のうち、担当者が一覧から遷移した直後に必ず確認する「注文概要」と、必要に応じて後から参照すれば十分な「過去の変更履歴」を切り分けることから始めます。
AIに画面改修を依頼する際も、単に「一覧からの遷移を速くしてほしい」と指示を出すだけでは、一覧に並ぶ数十件の受注詳細すべてを裏で一斉に取得するような極端なコードが生成されるリスクがあります。クリック前に表示させたい領域を絞り込み、一覧上の行を選択しようと操作したタイミングで限定的に取得を始めるような条件をあらかじめ整理しておくことが重要です。
そして開発環境で表示が整ったことを確認した後も、一覧画面を開いて通常の業務操作を行った際に、サーバーログ上で不自然なAPIリクエストの急増が発生していないかを確かめます。表示速度の向上とサーバー負荷のバランスは、既存の認証設計やキャッシュの有効範囲、データの更新頻度によっても異なるため、画面側の表示確認とバックエンド側の通信量確認をセットで進める姿勢が求められます。
デノフによる既存システムの改善支援
デノフのWeb・システム開発サービスでは、TypeScript、React、Next.jsなどを中心とした技術選定のもと、業務システムの設計・開発から公開後の運用保守までを一貫して提供しています。日々の業務手順や運用要件に合わせ、既存システムの課題整理や機能改善への対応も可能です。
社内システムやWebツールの読み込み遅延を解消したいものの、どこまで先読みを行ってよいか判断がつかない場合や、AIツールを用いた改修において人がどの段階で動作や差分を検証すべきか迷われている場合は、業務フローに即した要件定義からお手伝いいたします。改善すべき画面遷移の特定、即座に表示すべき情報と非同期で読み込める情報の切り分け、公開前後の確認項目の整理など、実際の運用に根ざした設計を進めることが可能です。
既存Webシステムの改修やデータ取得の見直しをご検討の際は、デノフへの相談窓口よりお気軽にご相談ください。



