業務システムで発生する更新通知や担当者の活動ログをAIエージェントへ連携させる際、これまでは長期記憶として抽出する前に、すべての内容を一度短期メモリイベントとして保存する必要がありました。そのため、会話履歴として残すべき情報と長期的な参照情報をどのように切り分けるかが、データ経路の設計における論点となっていました。

こうした背景のなか、AWSは2026年9月8日、Amazon Bedrock AgentCore Memoryにおいて、短期メモリイベントとして永続化せずに長期メモリ抽出へ直接データを渡せるIngestData APIの提供を発表しました。公式発表の詳細はAmazon Bedrock AgentCore Memoryの直接投入に関するAWSの公式案内で確認できます。

短期イベントを経由しないIngestData APIの仕組み

白背景に「長期記憶へ直接渡す経路」として、業務ログ・JSON、IngestData API、長期記憶の抽出、記憶レコードの順の接続と、検索して結果を確認する流れを示した概念図

従来のAgentCore Memoryでは、長期記憶レコードとして抽出処理を行う前に、すべての内容を一度短期メモリイベントとして保存する必要がありました。今回のアップデートにより、開発者は短期メモリの永続化を介さず、長期メモリの抽出パイプラインへ直接コンテンツを投入できるようになりました。

このIngestData APIでは、ユーザーやアシスタントのロールを持つ会話形式のペイロードに加え、ユーザーの行動や活動ログ、システムイベントなどを格納したJSON形式のペイロードがサポートされています。また、任意のメタデータを付与して抽出処理に渡すことも可能です。投入されたデータは設定済みの長期記憶抽出戦略へ展開され、抽出された記憶レコードは既存の検索操作を通じて参照できるようになります。

抽出結果の確認と再処理の運用境界

長期記憶への投入が可能になったとしても、送ったデータが自動的に適切な形で記憶されるとは限りません。実務への組み込みでは、投入処理そのものの成否だけでなく、意図した情報が記憶レコードとして抽出されたかを確かめる運用設計が求められます。

発表資料によると、抽出された結果はListMemoryRecordsやRetrieveMemoryRecordsといった操作で確認できます。さらに、Kinesisを通じたリアルタイム通知の受信や、ListMemoryExtractionJobsを用いた失敗した抽出処理の再実行(リドライブ)にも対応しています。業務に組み込む際は、データの送信だけでなく、抽出結果の検証や異常時の再処理手順をあらかじめ組み込んでおく必要があります。

RAGや他技術との役割分担

エージェントの長期記憶が進化すると、既存のRAG(検索拡張生成)などの位置付けに疑問を持つ声も上がります。しかし、これらは排他的な関係ではなく、適材適所で組み合わされる技術です。

この点について、AIワークフローにおけるRAGやMCPの役割を論じたGitHub Blogの解説では、RAGは社内ドキュメントやサポート履歴、製品詳細、コードベースの文脈など、モデルの学習データ外にある関連情報をAIに与える基盤であり、エージェント、Skills、MCPと同一のワークフローで共存するものだと説明されています。業務システム全体の設計においては、文書検索に適した仕組みと、活動ログから長期的な文脈を抽出・保持する仕組みを切り分け、全体最適を意識することが大切です。

自社の業務データへ応用する際の考え方

国内の業務システムに応用する場合、まずはどのデータを会話履歴として保持し、どのデータを長期的な参照情報として抽出へ回すかを分類することから始まります。

たとえば実在の案件ではない仮定の例として、顧客からの問い合わせ対応履歴、社内担当者の日々の対応記録、受発注システムの更新イベントなどが混在しているケースを考えてみます。画面上での直近のやり取りは短期の文脈として扱い、過去の対応傾向や業務イベントのログは、短期履歴を圧迫しないよう長期参照用の経路へ振り分けるといった設計が検討対象になります。

ただし、個別の業務システムで扱うデータ形式や機密区分、保持期間、削除要件、抽出精度の基準などは業務ごとに異なります。既存のデータ形式をどのような構造で渡すか、また抽出された記憶をどの検索方法で評価するかについては、実際の利用環境に応じた個別の整理が必要です。

デノフへのご相談と次のステップ

業務ログや社内データをAIエージェントへ連携させる取り組みでは、ツールの機能確認にとどまらず、既存システムのデータ構造とAI側の参照設計を丁寧にすり合わせることが欠かせません。

株式会社デノフでは、業務システムの設計・開発やAI導入支援の知見をもとに、取り扱う業務データの整理や既存システムとの連携範囲の検討、AI活用時の確認工程の設計といったご相談を承っています。詳しい提供範囲はデノフのサービス案内をご覧いただき、自社データの活用方法を具体化したい場合はデノフへの相談窓口からお気軽にお問い合わせください。